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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)87号 判決 1995年12月19日

アメリカ合衆国

ニューヨーク州14650、ロチェスター市ステートストリート343

原告

イーストマン・テクノロジー・インコーポレーテッド

同代表者

ピーター・ジルス

同訴訟代理人弁護士

片山英二

同訴訟代理人弁理士

吉田研二

金山敏彦

石田純

小林純子

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

山田益男

今野朗

大日方和幸

関口博

吉野日出夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成1年審判第12744号事件について平成5年2月4日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「固体撮像装置」とする発明(以下「本願発明」という。)について、1980年12月10日、アメリカ合衆国において、特許協力条約に基づく国際特許出願を行い(1980年1月16日アメリカ合衆国出願に基づく優先権主張)、昭和56年9月14日、特許法184条の4第1項規定の明細書、請求の範囲及び図面等の日本語による翻訳文を特許庁長官に提出した(昭和56年特許願第500502号)が、平成元年3月30日、拒絶査定を受けたため、同年8月14日、審判を請求した。そこで、特許庁は、この請求を平成1年審判第12744号事件として審理するとともに、平成3年6月19日、特許出願公告(平成3年特許出願公告第40554号)を行ったが、同年9月9日、特許異議の申立てがなされた。その結果、特許庁は、平成5年2月4日、特許異議の申立ては理由がある旨の決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月10日、原告に対し送達された(なお、出訴期間として90日が附加された。)。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)

複数の列に配列された光電変換素子のアレーより成る面撮像センサと、

上記光電変換素子の列を複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列を並列に読み出すとともに、上記複数のブロックの各ブロックを順次直列に読み出す第1の回路装置と、

上記光電変換素子の列からの信号を入力する入力ラインと表示されるべき映像の有効な映像解像線を示す信号を出力する出力ラインとを有する第2回路装置とを備えた固体撮像装置において、

上記各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列が上記読出しにあたって2本又はそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を出力するように接続されていること

及び上記面撮像センサは、毎秒30フレームの標準ビデオ・フレーム速度以上の映像フレーム速度を可能にする速度で読み出されること

を特徴とする固体撮像装置(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点(本件訴訟の争点に関連しない本願発明の「面撮像センサが毎秒30フレームの標準ビデオ・フレーム速度を越える速度で読み出される」構成についての検討部分及びこの部分の判断にあたり引用された昭和53年特許出願公開第22316号公報の内容部分を除く。)

(1)  本願発明の要旨は前項に記載のとおりである。

(2)  一方、本出願前に外国において頒布された刊行物である「RCA Review」Vol.32 251頁ないし262頁(以下「引用例」という。)には、次のような技術が図7(Fig.7)に対応して記載されている。

「<1> 複数の列に配列された光電変換素子のアレーより成る面撮像センサ(PHOTOCONDUCTOR DIODE ARRAY)と、

<2> 上記光電変換素子の列の16画素を複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群を並列に読み出すとともに、上記複数のブロックの各ブロックを順次直列に読み出す第1の回路装置(HASCAN GEN. VASCAN GEN. VBSCAN GEN.)と、

<3> 上記光電変換素子の群からの信号を入力する入力ラインと、表示されるべき映像の有効な映像解像情報を示す信号を出力する出力ラインとを有する第2の回路装置(HASCAN GEN. 16CHNNEL OUTPUT)と

を備えた固体撮像装置において、

<4> 上記各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群が、上記読出しにあたって、16画素の有効な映像解像情報を示す信号を出力するように接続されているとともに、

<5> 上記面撮像センサは、毎秒30フレームの標準ビデオ・フレーム速度で読み出される

固体撮像装置」(別紙図面(2)参照)

(3)  本願発明と引用例記載の技術とを対比すると、本願発明の面撮像センサの読出し速度は、毎秒30フレームの標準ビデオ・フレーム速度を含むものであり、この点に引用例との差異を認めることはできないので、両者は、

「<1> 複数の列に配列された光電変換素子のアレーより成る面撮像センサと、

<2> 上記光電変換素子の群を複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群を並列に読み出すとともに、上記複数のブロックの各ブロックを順次直列に読み出す第1の回路装置と、

<3> 上記光電変換素子の群からの信号を入力する入力ラインと、表示されるべき映像の有効な映像解像情報を示す信号を出力する出力ラインとを有する第2の回路装置と

を備えた固体撮像装置において、

<4> 上記各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群が、上記読出しにあたって、2以上の画素からの有効な映像解像情報を示す信号を並列的に順次出力するように接続されていること

<5> 及び上記面撮像センサは、毎秒30フレームの標準ビデオ・フレーム速度で読み出される

固体撮像装置」

で一致し、次の点で相違するものと認められる。

「各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群が、本願発明は「2本又はそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を持つ列」であるのに対し、引用例記載の技術は「素子列中の16画素」である点」

(4)  上記相違点について検討するに、本願発明の動作は、モノクロ方式のものでは2又はそれ以上、3色方式のものでは6又はそれ以上のチャンネルで、センサの蓄積信号を同時並列的に読み出すが、それは、同じ水平座標位置にあって、異なる垂直座標位置にある複数の光電変換素子の信号を、水平方向に1ブロック分読み出して、次の列の水平方向のブロックに進むというものであるのに対し、引用例記載の技術は、素子列内の16画素の信号を同時並行的に16チャンネルで読み出すが、それは、垂直(「水平」の誤記と認められる。)座標位置に隣接する16個の光電変換素子の信号を順次垂直(「水平」の誤記と認められる。)方向に読み出した上、16画素分ずつ水平方向にシフトして進むというものである。

これらは、複数の画素信号を同時並列的に読み出すという点で差異はなく、単にブロックの区分の仕方及び信号を同時並列的にどの様に切り出すかの違いであって、ブロックの区切り方については種々の態様が考えられるところであるから、本願発明の構成は、当業者が容易に想到できる一態様にすぎない。

したがって、本願発明は、引用例記載の技術に基づいて容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)は認める。

同(2)のうち、引用例中に、<1><5>の記載があること、<2>のうち複数のブロックの各ブロックを順次直列に読み出すものとされている第1の回路装置の記載があることはいずれも認めるが、<2>のその余の記載及び<3><4>の各記載があることは否認する。

同(3)のうち、冒頭の記載及び本願発明と引用例記載の技術が、<1><5>の点において一致すること及び<2>のうち複数のブロックの各ブロックを順次直列に読み出すものとされる第1の回路装置の点において一致することについては争わないが、<3><4>の点について一致することは争う。

同(3)(4)における相違点の認定、判断については争わない。

審決は、本願発明における「第2回路装置」の技術内容及び引用例記載の技術における「第2回路装置」に相当する部分の技術内容を誤認した結果、本願発明と引用例記載の技術とは「第2回路装置」において一致すると認定した点において違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  本願発明は、固体撮像素子からの出力速度を増大させるために、ビデオ・ディスプレイへの出力信号をブロック毎の並列信号としたものであるが、本願発明における「第2回路装置」は、光電変換素子の列からの信号を入力する入力ラインと、表示されるべき映像の有効な映像解像線を示す信号を出力する出力ラインとを有し、その間の切換選択機能を必須とするものである。

すなわち、本願発明の第2回路装置には光電変換素子の列からの信号がすべて入力されており、同装置は、その信号グループ(各ブロック)を切換選択して出力するものであって、本願明細書(本願公告公報)の実施例に記載されたマルチプレクサに相当するものである(上記実施例では、第2回路装置すなわちマルチプレクサ45が、192の入力ラインから所定の順番で指定される32の信号グループを切換選択して出力するものとされている。)。

本願発明は、「第2回路装置」の構成及び作用により、1つのブロックにおける光電変換素子列の数と等しい数により読み出されるセンサに対して必要な時間の短縮が行われ、例えば毎秒60フレームの最大フレーム速度で読み出すことのできる192列のセンサは毎秒1920、すなわち32×60の速度で読み出すことができるという作用効果を奏するものである。

(2)  他方、被告が「請求の原因に対する認否及び被告の反論」において主張するところの、引用例における「第2回路装置」(16本の水平信号線から16CHANNEL OUTPUTまでの構成)は、別紙図面(2)記載のFig.7から明らかなように、光電ダイオードアレイから読み出された信号をダブルストアマルチプレクサに導くための単なる16本の接続線にすぎず、本願発明の第2回路装置のような切換選択機能を備えているものではなく、入力された信号群をそのまま出力するのみである。

したがって、そもそもこのような部分を「回路装置」と認定すること自体疑問であるばかりか、上記のような切換選択機能を備えないものを本願発明の第2回路装置に相当するものとすることはできない。

(3)  以上のように、本願発明の第2回路装置と、被告の主張する引用例の「第2回路装置」とはその目的、機能、効果が全く異なるものであるから、それらを同一のものとすることはできず、これを同一であるとした審決は、両者の一致点についての認定を誤ったものであり、違法である。

(4)  なお、被告は、本願発明の特許請求の範囲における「上記各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列が上記読出しに当たって2本またはそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を出力するように接続されている」との記載から、上記記載の出力信号を第2回路装置への入力信号と同一のものであると解し、本願発明における第2回路装置の入力ラインへの信号を「映像解像線を示す信号」であると主張する。しかしながら、本願発明の特許請求の範囲の記載においては、第2回路装置の入力ラインへの入力について、単に「上記光電変換素子の列からの信号を入力する」とされているだけであり、また、同記載においては、光電変換素子が複数の列に配列されていることも明らかである。したがって、本願発明における第2回路装置の入力ラインに対しては、光電変換素子の複数の列からの信号がすべて入力されていることに何らの疑問もない。上記の特許請求の範囲の記載における「上記各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列が上記読出しに当たって2本またはそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を出力するように接続されている」との記載は、第2回路装置への入力信号についてのものではなく、固体撮像装置全体からの出力信号についてのものであるにすぎない。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  審決において認定した引用例記載の技術における「第1回路装置」と「第2回路装置」について、更に説明を加えるならば次のとおりである。

ア 審決において「光電変換素子の列の16画素を複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群を並列に読み出す」というのは、まず、引用例記載の技術においては、別紙図面(2)記載のFig.7における上下32群に分けられた水平方向の光電変換素子列の内の1群がVASCAN GEN.により選択され、続いてVBSCAN GEN.によりその内の1列が選択された上、HASCAN GEN.によりその1列内にある互いに隣接する16素子が選択され、その信号(蓄積電荷)が並列的に読み出されるということである。そして、審決が、引用例記載の装置において「上記複数ブロックの各ブロックを順次直列に読み出す」というのは、HASCAN GEN.により選択された1回分につき読出し動作がなされると、これに隣接する16素子からなる次の1回分の選択がなされ、そのことが繰り返されてその行の読出しが終了すると、VBSCAN GEN.により読出し行が更新され、再びVASCAN GEN.により素子列群の指定が逐次更新されることにより、16素子の群からなるブロックが、時系列的に、順次直列に読み出されるいうことを指すものである。

イ したがって、引用例記載の技術における、本願発明の第1回路装置に相当する部分は、厳密には、VASCAN GEN.及びVBSCAN GEN.により画撮像素子の列指定を行うところから、HASCAN GEN.により指定された16素子の信号を出力するところまでである。

ウ また、審決が引用例の第2回路装置について述べるところの「上記光電変換素子の群からの信号を入力する入力ライン」とは、HASCAN GEN.によって指定された光電変換素子の群からの信号を受け入力するライン、すなわち別紙図面(2)記載のFig.7下方における16本の水平信号線のことであり、同じく「表示されるべき映像の有効な映像解像情報を示す信号を出力する出力ライン」とは、表示されるべき映像の有効な映像解像情報を示す信号を出力する16CHANNEL OUTPUTのことである。

したがって、引用例における第2回路装置とは、16本の水平信号線から16CHANNEL OUTPUTまでを指すものである。

(2)  発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきであり、上記特段の事情とは、特許請求の範囲に記載された技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載の誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明白である等の場合に限られるものと解される。そして、本願発明の特許請求の範囲における第2回路装置については、「光電変換素子の列からの2本又はそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を入力する入力ラインと、表示されるべき映像の有効な映像解像線を示す信号を出力する出力ラインとを有する」と記載、定義されているだけで、「光電変換素子の列からの信号がすべて入力されている」ことも、「多数の入力から有効な信号に切換選択する機能を有している」ことも記載されていない上、上記請求の範囲の記載はそれ自体明確であるから、それを、原告主張のように、すべての信号の入力や切換選択機能の具備を含むものと解すべき特段の事情も存在しない。

すなわち、本願発明における第2回路装置は、特許請求の範囲の記載から、「上記光電変換素子の列からの信号を入力する入力ライン」と「表示されるべき映像の有効な映像解像線を示す信号を出力する出力ライン」とを有するものであることは明らかであり、また、上記特許請求の範囲の記載によれば、「入力ラインに入力する信号」である「光電変換素子の列からの信号」とは、「第1回路装置により、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列が並列に読み出されたものであるとともに、上記複数の各ブロックが順次直列に読み出されたもの」であり、また、「各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列が、読出しにあたって、2本又はそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を出力するように接続されていること」を特徴とするものとされているので、結局、本願発明の第2回路装置は、「第1回路装置により、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列を、2本又はそれ以上の有効な映像解像線を示す信号として並列に読み出すとともに、読み出された各ブロックの信号を順次直列に入力する入力ライン」と「表示されるべき映像の有効な映像解像線を示す信号を出力する出力ライン」とを有するものであると明確に理解されるところである。

そして、引用例に示された16本の水平信号線は、そこに、1ブロック分である光電変換素子の列からの並列信号(16素子分)が32ブロックに渡って順次直列に入力されるものであるから、それは本願発明の入力ラインに相当し、また、引用例における16CHANNEL OUTPUTは、映像解像線を示す信号を出力する出力ラインに相当するものであるから、本願発明の出力ラインに相当する。したがって、引用例における「16本の水平信号線から16CHANNEL OUTPUTまで」の部分は、本願発明の第2回路装置と一致するものである。

以上のとおりであるから、本願発明における第2回路装置は、引用例記載の技術における第2回路装置とは異なるものではなく、審決には原告主張のような誤認は存在しない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載)、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

第2  本願発明の概要について

成立に争いのない甲第2号証(本願発明の平成3年特許出願公告第40554号公報)によれば、本願発明の概要は以下のとおりである。

本願発明は、電子撮像技術を改良するとともに、センサ構成素子が非常に早いフレーム速度で読み出されるように構成した固体撮像装置に関するものである。

ビデオカメラにおいては、固体面撮像センサの使用が最近一般化してきている。典型的な固体面撮像センサは、行及び列状に配置された電荷積算用の光電変換素子(例えばホトコンデンサ、ホトダイオード等)のアレーからなり、各光電変換素子は、入射光線に応答して適当にアドレス指定され読み出されると、フレーム情報の一つの画素(ピクセル)の輝度に対応する信号を生じる。

ところで、上記センサは、従来、一般に公知の順次読出し法であるライン転送法、フレーム転送法、ライン間転送法の一つにより、1ラインずつ順次読み出されているが、それらの方法によっては、アレーの漂遊キャパシタンスその他の固有の電気作用特性により、早いフレーム速度(毎秒120フレーム以上)で水準技術の高解像力を有するセンサを読み出すことは不可能である。他方、面撮像センサから早いフレーム速度で読み出すための別の試みは、すべてのセンサラインを同時に即ち並列的に読み出す方法を用いることであり、それによると、1フレームの情報の読出しに要する時間はおおよそ1本のラインの読出しに要する時間で済むが、その場合、別々にかつ実質的に同じ方法で処理されなければならない多くの「ライン」信号が生じるため、上記読出し方法を、情報ライン数の比較的少ない低解像力のものの処理以外に用いることはできない。

本願発明は、要旨記載の構成を採用することにより、並列ライン読出し法における上記の点を改良し、同時に処理されなければならない信号数を、上記方法による数よりはるかに少ない数に減少させるとともに、直列ライン読出し法におけるいずれの方法によっても必要とされる時間の一部分をもって、固体面撮像センサからの情報を読み出すという方法を提供するものであって、上記の並列ライン読出し法のように多くの信号を処理する必要もなく、かつ毎秒数千フレーム程度の読出しフレーム速度を得ることができるというものである(以上、同公報2欄14行ないし5欄13行)。

第3  審決取消事由について

そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  本願発明と引用例記載の技術が、ともに固体撮像装置に関するものであり、いずれも、複数の列に配列された光電変換素子のアレーからなる面撮像センサをブロック毎に順次直列に読み出す「第1の回路装置」部分を備えていることについては当事者間に争いがなく、また、前出甲第2号証及び成立に争いのない甲第3号証の1、2(引用例)によると、引用例記載の技術においては、上記の光電変換素子の列を上記のとおり直列に読み出すにあたって、光電変換素子を16画素毎の複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群を同時に(並列に)読み出す構成とされており、この点においても、本願発明と引用例記載の技術は、光電変換素子の群を複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の群を並列に読み出す点において共通すること、更に、引用例記載の技術における上記の具体的な読出し方法は、「請求の原因の認否及び被告の反論」2(1)アに記載のとおりであり、そこにおいては、HASCAN GEN.により指定された光電変換素子群からの信号を入力する16本の水平信号線から、信号を出力する16CHANNEL OUTPUTまでの部分において、16本の水平信号線を入力ラインとし、16CHANNEL OUTPUTを出力ラインとする回路構成が示されていることが認められる(なお、上記部分を回路として認めることに不都合はない。)。そして、それらの事実からみるならば、上記回路における光電変換素子に対する入、出力の作用に照らし、上記回路部分が本願発明における「第2回路装置」に相当するものということができる(なお、審決が、審決の理由の要点(2)<3>において、HASCAN GEN.による信号の出力から16CHANNEL OUTPUTまでの部分を「第2回路装置」と認定したのは正確でないが、そのことは後述する認定判断を左右するものではない。)。

2  これに対し、原告は、本願発明に係る「第2回路装置」とは、そこに光電変換素子の各列からの信号がすべて入力され、同所における切換装置(マルチプレクサ)によりその信号の切換選択がなされた上、光電変換素子の各ブロック毎の信号が出力されるものを意味するから、入力信号に対する切換装置を有しない引用例記載の技術における「第2回路装置」とはその機能において異なるものであるとし、審決は、両者の「第2回路装置」を一致するものと誤認した上で結論に至ったものであるから違法である旨を主張する。

3  そこで、本願発明の「第2回路装置」と、引用例記載の技術における「第2回路装置」との各機能内容の異同について検討するに、

(1)  まず、引用例記載の技術に係る「第2回路装置」については、前出甲第3号証の1、2によると、前記のとおり選択された16画素毎の光電変換素子の信号が同装置の16本の水平信号線に入力されると、同装置において、それをそのまま16CHANNEL OUTPUTから順次出力する回路構成とされているものであることが認められる。

(2)  次に、本願発明に係る「第2回路装置」についてであるが、

ア 本願発明の特許請求の範囲第1項においては、同装置について、「上記光電変換素子の列からの信号を入力する入力ラインと表示されるべき映像の有効な映像解像情報を示す信号を出力する出力ラインとを有する」ものと記載されているが、その機能内容についてはそれ以上の限定がなされていない。

イ 更に、本願発明における上記装置の機能に関し、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載内容についても検討を加えるならば、

(ア) 本願発明の特許出願公告公報における発明の詳細な説明及び図面においては、「本発明の基礎になる概念は第1図に示されるが、同図は192の水平列R1~R192および248の垂直行C1~C248に配列された光電変換素子アレーからなる「単色」の面撮像センサ40(即ち、これらの光電変換素子は光の同じ波長範囲に対して感応する)を示している。」と記載され(前出甲第2号証6欄4行ないし9行)、また、「スイッチとして作用するマルチプレクサ45は、活動状態の出力ラインの数を192から32に低減させ、出力信号S0が読出されつつある32の光電変換素子列と対応する活動状態の32の出力ライン上に現われる。」と記載されている(前出甲第2号証7欄7行ないし11行)。

そうすると、本願発明の特許請求の範囲第1項における「第1回路装置」についての記載と合わせ考えるならば、特許請求の範囲に記載された「第2回路装置」のうち「上記光電変換素子の列からの信号を入力する入力ライン」とは、具体的には、上記の「192の水平列R1~R192および248の垂直行C1~C248に配列された光電変換素子アレー」のうち、「水平列R1~R192」に応じてブロックに区分された信号を入力する入力ラインに相当するものであり、また、上記「第2回路装置」のうち「表示されるべき映像の有効な映像解像線を示す信号を出力する出力ライン」とは、上記の「出力信号S0が読出されつつある32の光電変換素子列と対応する活動状態の32の出力ライン」に相当するものであることが明らかである。更に、上記「第2回路装置」自体は、上記の「スイッチとして作用するマルチプレクサ45」に相当するものであるとともに、上記の「活動状態の出力ラインの数を192から32に低減させ、出力信号S0が読出されつつある32の光電変換素子列と対応する活動状態の32の出カライン」上に出力させる機能を有するものに相当するというべきである。

(イ) 一方、本願発明の特許請求の範囲第1項においては、「光電変換素子の列を複数のブロックに区分し、各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列を並列に読み出すとともに、上記複数のブロックの各ブロックを順次直列に読み出す第1の回路装置」との記載があり、また、発明の詳細な説明においては、「本発明によれば、センサ40の光電変換素子は、各々32の光電変換素子列の内6つのブロック、B1乃至B6にフォーマット化される。読出しを開始するには、クロックで駆動される駆動回路22(クロック24により駆動)はブロック開始信号Xを公知のシフト・レジスタ42または類似の回路に送出する。この開始信号の受取りと同時に、シフト・レジスタ42は読出しのためのブロックB1の全ての32列を使用可能にする信号Aを生じる。駆動回路22からの行開始信号X’の受取りと同時に、行シフト・レジスタ44の形態で示された行アドレス電子作用素子が、アドレス信号S1、S2、S3……S248を連続的に与えることによって全ての面撮像センサ40の光電変換素子行を順次アドレス指定する。しかし、ブロックB1の光電変換素子列(列1~32)しか使用可能状態にならないため、ブロック1のこれらの列のみが実際に読出される。(可能状態でないブロック内の光電変換素子においては、アドレス指定される間、列R1~R32の読出しによって影響されず、入射光に応答して電荷を積算し続ける。)光電変換素子域の248行が順次アドレス指定された後、行シフト・レジスタ44からの「列の終り」信号Yがブロック選択シフトレジスタ42をして可能信号Aを終了させ、可能信号Bを送出させる。可能信号Bが存在する時、ブロックB2の光電変換素子列のみが使用可能状態になり、他の全てのブロックは非可能状態に残される。」旨が記載されている(前出甲第2号証6欄17行ないし末行)。

そうすると、本願発明の「第2回路装置」(マルチプレクサ45)においては、「水平列R1~R192」からのすべての出力線(192本)がマルチプレクサ45の入力ラインとして接続されているものの、同所において信号を読み出すにあたり、有効な映像解像線を示すものとして入力ラインから入力される信号自体は、ブロックB1ないしB6のうち1組(32本)のブロックから出力された出力信号のみであることが明らかである。

そうであれば、上記のとおり、その余のブロックからの出力線もマルチプレクサ45の入力ラインを構成しているものではあるが、マルチプレクサ45に対し、1組のブロックからの信号が入力されている間はそれ以外のブロックから何らの信号も入力されていない関係にあるから、マルチプレクサ45においては、あえてスイッチ機能ないし切換機能を備えるまでもなく、上記ブロックからの映像解像線を示す入力信号を、そのまま「第2回路装置」の32本の出力ラインに出力する機能のみを有するとしても、「第2回路装置」の機能として不足するところはないものというべきことになる。

(ウ) そうすると、本来、マルチプレクサとは、複数の入力データを選択信号により選択して、指定された出力端子に出力する機能を持つものではある(このことは当裁判所に顕著な事実である。)が、本願発明においては、その詳細な説明の記載に基づいても、「第2回路装置」に相当するマルチプレクサ45に、原告主張のようなスイッチ機能ないし切換機能を持たせることが必須であるとは認められないものといわざるをえない。

(3)  以上の(2)ア及びイにおける検討の結果によれば、本願発明における「第2回路装置」については、スイッチ機能ないし切換機能を有するものに限定されると解すべき理由はなく、それらの機能を備えていない、単に入力ラインに入力される信号を出力ラインに出力する機能のみの回路装置をも包含するものというべきである。

そうであれば、本願発明における「第2回路装置」の機能内容は、前記(1)のとおりの引用例記載の技術における「第2回路装置」の機能内容をも含むものというべきことになる。

(4)  なお、原、被告間においては、本願特許請求の範囲に記載されている「上記各ブロックを構成する複数の光電変換素子の列が上記読出しにあたって2本又はそれ以上の有効な映像解像線を示す信号を出力するように接続されている」との要件の解釈についても争いがあるが、その解釈如何が、本願発明における「第2回路装置」の切換選択機能に関する上記認定を左右するものとも解されないから、ここで特に検討を加えるまでもないというべきである。

4  以上によれは、本願発明における「第2回路装置」と、引用例記載の技術における「第2回路装置」とが一致するものであるとした審決の認定には誤りはなく、審決には原告主張の違法はないものというべきである。

第4  以上によれば、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)

別紙図面(1)

<省略>

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別紙図面(2)

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自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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